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2011年創業、東北を拠点に若者支援・
まちづくり事業・組織づくりをする認定NPO法人

現代の若者のアイデンティティ 「ほんとうのわたしはどこにあるのか」【SOKOAGE CAMPコラム】

こんにちは、底上げ齊藤です。
年末年始、いかがお過ごしでしょうか?

2016年から8年にわたり実施してきたSOKOAGE CAMP。2024年の2,3月は、充電期間としてお休みをすることにしました。
最近はこれまでの経験してきたことを振り返りながら、これからSOKOAGE CAMPがどこに向かっていくのかをスタッフで模索しています。私たち自身もSOKOAGE CAMPの変容にワクワクしながら。
そして2024年夏には、またSOKOAGECAMPをお届けしたいと思っておりますので、お待ちください!

と言うことで、
ここではこれまでSOKOAGE CAMPがやってきたことを、”アイデンティティの形成”と言う観点から考えてみるとどんなことがいえるのか? ということをまとめてみましたのでご覧いただければ幸いです!

現代社会と自己形成

現代社会は「後期近代社会」「ポストモダン」などと称され、その在り様は個人のアイデンティティの形成に影響をあたえているという指摘が多くなされています。

では、個人に影響を与える現代社会の側面とは一体どういうものであると言えるのでしょうか。

現代は、これまでの伝統的な拘束力がなくなり、個人は多様な選択肢を得ることができるようになっています。
そうした社会の変化に合わせ、若者を取り巻く状況も大きく変化しています。

学校から仕事への移行は長期化し、また、家族や友人との関係性や、教育・労働の環境、ライフスタイルやコミュニケーションのあり方など、多様化、複雑化が進んでいます。
そして、多様化・複雑化した社会では、個人の生き方は、ある程度決まった社会の経路に自身を適合していく前期近代社会の生き方に対し、自らの価値観や信念をより積極的に構築しその価値や信念に基づいて職業選択や人生形成を行っていくことが必要とされていきます。

つまり、現代は古い規範が薄れ、人生の重要な決定は自己責任として自身を頼りにすることが重要であるということなのでしょう。

個人は「自分は何者であるのか」ということを問いながら行為を選択し、人生で出会う葛藤に自分にとっての意味を見出していきます。そして、自分のアイデンティティに意味を付与しつづけていく”再帰的”な自己を形成する必要があると言われています。

再帰的に自己を形成していくプロセスでは、仕事や他者との関係性、共同体や社会に貢献しながら役割を果たすことがアイデンティティの形成やその維持活動がより重要になるのです。

現代の若者のアイデンティティ

現代の日本における若者を中心とした友人関係の築き方は、一緒にいる他者に応じて異なる自分を振る舞う「状況志向」であるとされています。

そうした関係性構築の価値観が強いなかで、どんな時にも揺るがない一つだけの『ほんとうのわたし』は果たして成り立つのでしょうか?

現代におけるアイデンティティ形成のアプローチは、自身のストーリーから見出される意味に加え、他者や社会との関係の中で流動的・偶発的に構築されると説明しています。さらに、自己形成は再帰的であると前述したように、永続的に一意に定まるわけではなく、可変なものであるといわれています。

つまり『ほんとうのわたし』とは、一つに定まらず、変容していくものと考えることができるでしょう。『わたし』は状況に応じて使い分けられ、さらに自身の経験や社会の変容により再解釈・再構築されるものでもあるのです。

このアプローチでは、青年期に形成されるアイデンティティの感覚は、基本的信頼の感覚と自己意識の感覚と他人の信頼に応える責任の感覚とを個人としてまとめ上げると同時に、社会における自らの位置を見出すことによってはじめて支えられるといわれています。(河井2011)

つまり、若者は学校や家庭、部活、ボランティア活動、アルバイト、多様な社会関係に所属し、役割を担うことで、社会の中で適所を見つけ、個人の中における同一性を見出し、かつ、他者に承認されることによって外部との同一性も確立していくわけです。

これはアイデンティティの3要素(下記参照)からも説明することができます。

・自我アイデンティティ(ego identity)
人生の目的に根差した連続性の感覚を形成する主観的で心理的な構成要素

・個人的アイデンティティ(personal identity)
他者と差異化された行動様式を構築し取り組む個人的な構成要素

・社会的アイデンティティ(social identity)
共同体の中で承認された役割と状態を見出し引き受ける社会的な構成要素

河井・溝上(2020)より抜粋

現代社会における多くの人びとにとって問題となっていることは、1つの変わらないアイデンティティを見出すことではなく、この3つの構成要素を調整して安定させていくことであるといわれています。

状況に応じた自己のあり方を見出し、マネジメントできるようになることは、多様な他者や集団と関わりながら生きていくことが必要な現代においては重要になっているのです。

居場所と省察

現代におけるアイデンティティの感覚は、自身の中で連続している内的な同一性と共に、変化する社会的役割や人間関係といった外的現実にも適する自分というものをまとめあげる必要があります。

1つの文脈(集団や関係性)の中で自己を構築することと同時に、異なる2つ以上の文脈で構築された複数の自己間の関係を認識することがアイデンティティ形成にとって重要です。

こうした個別の状況の文脈で構築される自己間を調整する営みとして、省察が重要であるといわれています。

多様な文脈が同時多発的に進んでいく現代社会のライフコースにおいて、それらの文脈から少し離れ、自身を省察し、再解釈していく営みが、再帰的な自己形成を助けることになるのです。

また、アイデンティティと居場所感との間には有意な相関があることが報告されています。
「私が居場所と感じることができる環境があること」「私をみなおすことができること」
これらは若者にとってはもちろん、現代を生きる全ての人にとって、『わたし』がアップデートされるその時々に必要であると言えるでしょう。

アイデンティティの形成という観点から現代を生きる人々と社会の関係性を紐解くと、新たに必要とされる環境を見出すことができます。

SOKOAGECAMPもその一端を担うことができる環境として、再帰的に在りたいと思います。

参考文献

アンソニー・ギデンス著 秋吉美都・安藤太郎・筒井淳也訳(2021)『モダニティと自己アイデンティティ 後期近代における自己と社会』ちくま学芸文庫

浅野智彦(2015)『「若者」とは誰か: アイデンティティの30年【増補新版】』河出ブックス

藤野遼平(2021)「後期近代における自己の多元化の傾向とアイデンティティ理論に関する動向と展望」『大阪大学教育学年報』vol.26, no.26 ,pp.51-62.

ジェームズ・E・コテ&チャールズ・Gレヴィン著 河井亨・溝上慎一訳(2020)『若者のアイデンティティ形成 学校から仕事へのトランジションを切り抜ける』東信堂

齊藤祐輔

東日本大震災後、宮城県気仙沼市に入り緊急支援活動やボランティアのコーディネートなどを行う。底上げを設立したのち、1年ほど海外を放浪。大学生や若手社会人向けの自己内省を目的としたプログラムなどを実施。1ヶ所にいるのが苦手で放浪癖がある。