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オイルパステルワークショップから見る無意味の意味【SOKOAGE CAMPコラム】

こんにちは、底上げ齊藤です。

いよいよ1ヶ月後に迫った旅するオイルパステル展
以前に底上げブログでもお知らせさせていただきましたが、このオイルパステル展は、SOKOAGE CAMPで実施したワークショップから生まれたものです。
オイルパステルを用いたワークショップをしてきた中で、私自身もたくさんの学びを得ることができました。

そこで今回は、オイルパステルから学んだものを
・理性と感性
・意味性
という2つの観点から、書いてみました。

理性と感性

SOKOAGE CAMPでは多様なコミュニケーションが行われます。対話はもちろん、体を動かしたり、絵を描いたりしながら自己理解と相互理解を深めていきます。こうしたコミュニケーションの中には、理性的コミュニケーションと感性的コミュニケーションとに分けられるものがあります。
理性的コミュニケーションは、「言語の一義的・理性的な意味に基づいて、厳密かつ正確な認識を不特定多数の人同士のあいだで共有する」コミュニケーションであるのに対し、感性的コミュニケーションは、距離の近い関係において「気持ちのつながりやその共有」が問題になるようなコミュニケーションであると説明されています。(鯨岡 1997)

この分類で言えば、SOKOAGE CAMPで用いている内省&共有ワークにおける「ジャーナル」(感情や意味を記す日記のようなもの)などはいわゆる理性的コミュニケーションに該当する。“言語化”し”意味”を問われることが多い現代において、この理性的コミュニケーションの影響はとても大きいでしょう。しかし、自分の中に渦巻く、言語では言い表すことができないこともありますよね。例えば、私が海外に初めて行った時は、思ったことが全く言えずに悔しい思いをしました。日常生活の中でも、学校や職場や家で、自分に対し、他者に対し、社会に対し、言葉にならないような感情になることもあるのではないでしょうか。

こうしたものを共有するための手段としてオイルパステルを使ったワークをすることがあります。

自分のうちにあるものを色を重ねていくことで表現し、出来上がったものを共有します。言語で伝えたいことがあれば説明をすることもできるし、周りの人から感じたことを伝えてもらうことで、自分が気が付かなかった意味に出会うこともあります。

今まで数々のワークショップをやってきた中で、人の表現がさまざまであることを学びました。理性的コミュニケーションとして、対話することで思考が進む人もいれば、一人で黙々と文章を書きたい人もいます。一方、言語を使うワークではなかなか表現が出てこなくても、オイルパステルのように色を重ねる、絵を描く、なにかを作る、といった形で自己表現をする、感性的コミュニケーションを得意とする人も多くいました。これまで言えなかったこと、言ってはいけないと思っていたこと、考えても出てこなかったことなどを、オイルパステルを使い表現できたことで救われた人もたくさんいたんだなと、改めて感じています。

意味性

オイルパステルを描いている時に気がつくことがあります。それは”意味”や”価値”の置き方についてです。
みなさんはこれまでの経験にどんな意味・価値があったのかを考えますか?そしてそれはどうやって測りますか?これからやろうとすることであれば尚更、将来につながるのか、社会のためになっているのか、自分の成長につながるのか・・・いろんなことを考えるのではないかと思います。

未来のありたい姿から逆算しながら行動を積み重ねるのは、バックキャスティングと呼ばれます。
現場に行き詰まりを感じるときや、自分がどこへ向かうのかわからなくなるとき、未来が不透明な現代だからこそ必要な考え方であり、行動設計であると言われています。

一方、オイルパステルで線を重ねていると、それがどこに向かうのか、なぜその色を塗っているのか、わからない状態で手を動かしていることが多くあります。絵については全く詳しくありませんが、おそらくこれは、風景画や人物画のプロセスとは全く違うのだと思います。正解やゴールに近づくために描く、のではなく、没頭して描いた結果をゴールとする、ということなのだと思います。

私にとって、こうした経験は最近少なくなってきているなと感じます。
世の中には情報がたくさんあり、「成功するための7つの方法」や、「ありたい姿に向かうための手法」を簡単に知ることができます。(できるかどうかは別として。)そして自分の行動の意味を”言語化”し”説明”できることから意識的に、または、無意識に選んでいることが多くあります。それがないものは無駄であり、価値や関連がないものとして見なされてしまう。私自身、「それはなぜやりたいの?」と自問したり、周囲に説明を求めることがあります。

しかし、やる前から明確な意味がわからなくても、社会的な評価がされなかったとしても、私にとって、誰かにとって”重要であること”は、世界にはあるのではないでしょうか?

また、オイルパステルから学ぶもう一つの視点として、出来上がったものに、他者が意味や価値を見出すという点もあります。言語ではないことで、”一義的”、“厳密かつ正確な認識”という理性的コミュニケーションから解き放たれます。“海”という単語を見れば、色や音、水面の動きなど、私の海、と、あなたの海、は違う前提でありながら、それぞれ類似しているものを想像できていると思うでしょう。しかし、青を基調に描かれた絵がそこにあり、深い青の中に白や、黄色が散りばめられたその色をみると、それを海だと受け取る人もいれば、私の内面を表していると感じる人もいます。また、理由はわからないけど、この絵が良い、と価値をつける人もいます。一見何だかわからないものが、他者にインスピレーションを与え、それを受け取ることで自身にも新しい発見が生まれ自己理解や内省が進む、こうしたこともオイルパステルというアートの持つ力なのかなと思います。

オイルパステル展やります

さて、ここまで取り上げてきたオイルパステルのワークショップですが、SOKOAGE CAMPではこれまでに多くのオイルパステルたちが生まれました。参加者のなかにはSOKOAGE CAMPから帰った後も、感情の整理や他者への贈り物にオイルパステルを描いているという人もいます。

そこで今回、「Reflection ”リフレクション”」をテーマに、オイルパステルの展覧会を開催することにしました。

Reflectionという言葉には、内省と反射という意味があります。

<内省>ー自己と向き合い、内省することで、自分の深くにあるまだ出会うことのない感情と出会うことー と、<反射>ー自己と向き合い対話を繰り返す中で、相互が作用しあうことー 、SOKOAGE CAMPで大切にしているこの二つのことから生まれたオイルパステルを6日間、宮城県仙台市にて展示します。

展覧会の詳細は以下になります。

旅するオイルパステル展 -Reflection-
心の深層に潜む感情と自己探究の旅

▶日時 2024年3月19日ー24日 午前11時〜午後7時
▶会場 仙台アーティストランプレイスSARP 宮城県仙台市青葉区錦町1-12-7門脇ビル1F
▶入場料 無料
詳細はこちら

展示期間中は底上げのスタッフの誰かが在廊しています!ご興味のある方、時間を作ってぜひお越しくださいませ。

また、この展覧会は”参加型”の展覧会としており、ご来場いただく方々にも作品を制作し、展示することが出来るようになっています。是非、じっくり<内省>と<反射>を表現し、感情的コミュニケーションを楽しんでいただければと思います。

【イベント】旅するオイルパステル展開始!イベントの見どころ紹介!

3月19日よりいよいよ、旅するオイルパステル展が始まりました。今回は見どころや、楽しみ方のほか、会場で実施するイベントについてご紹介します! 展示という形は初めての試みです。是非仙台の会場にお越しください! 旅するオイル [… …

イベント

参考文献
笠原広一(2014)「完成的コミュニケーションによる幼児の芸術体験の分析 ーアート・ワークショップにおける体験と変容の意味についてー」『美術教育学会誌』vol.35,pp.223-242.
鯨岡峻(1997)『原初的コミュニケーションの諸相』ミネルヴァ書房