【あそびばの仲間集め】ならはこどものあそびばー夏休みの一日ー
「『ならはこどものあそびば』を一緒につくる、仲間を募りたくて……」
子どもたちの居場所となり、自分とあいての気持ちを大切に表現できる場をつくりたいと2022年にひらかれた「ならはこどものあそびば(以下、あそびば)」。インターンシップをきっかけに楢葉町へ移住してきた、日野涼音(りょう)さんが運営しています。
2024年10月、あそびばは開所して2年を迎えました。もともとは商店だった場所を活用したあそびばの活動は地域の景色に馴染み、住民の人たちに見守られ、活動の場を広げてほしいという声も聞こえ始めているようです。
学生インターンや地域住民の方がスタッフとして入ることはありましたが、運営の中心部分を担うのは日野さん一人。地域の声を聞くなかで、もう一人、二人と仲間がいればと思うことが増え、来年度から新しい仲間を迎えたいと動き始めています。
このブログも、その中の一つです。自己紹介が遅れました。私はあそびばのある福島県浜通りを中心に、記録家・ライターとして活動している蒔田志保です。冒頭のメッセージを日野さんからいただき、あそびばの様子や想いを一緒に伝えるお手伝いをしています。
新たな仲間を募るために、そしてまずは私があそびばがどんなところかを知るために、夏休みのある一日におじゃましました。
5人の子どもたちがあそびばに
夏休みのあそびばは、午後1時に始まります。玄関口となる窓ガラスには、あそびばがどんな場所かということやお気に入りの歌詞などの文字、名もなきイラストが描かれています。いい意味で、きちんと過ごさなくて良さそうな場所という印象。
開始時間から5分ほど、あそびばに到着すると、日野さんと、Jくん・Sちゃんきょうだいがすでに遊び始めていました。そして、私と同時に、Aちゃん・Aくん・Hちゃん三きょうだいも到着。
自由で、にぎやか
玄関を開けると、そこは土間。小上がりを上がったところがリビングのようにひらかれています。小学生ぐらいの子どもが座ってあれこれするのに、ちょうどいい高さのテーブルが真ん中に一脚。それを囲むように、さまざまな高さの引き出しがあり工作の材料がチラリと飛び出し、少しにぎやか。棚や壁には子どもたちが作った制作物、あそびばでやりたいことを描いた模造紙などでがちゃがちゃ、ごちゃごちゃ。そんな整わなさから、ここが自由な場であることを感じます。
それぞれ、一緒に、何してすごす?
部屋の様子を眺めながら、子どもたちは何をして遊ぶのかなと様子を伺っていると「なっつんの誕生日パーティーの準備をしよう!」という声が。どうやら、私が訪ねた翌々日の8月7日、あそびばのインターン生のなっつんがお誕生日を迎えるようです。細切りにした折り紙を輪っかにして連ねて、飾りをつくり始めました。
最初に工作を始めたのはJくんとSちゃん。Jくんが「Sちゃんは細いやつをつくる係ね」「わかった、輪っかにしてつなげるわ。りょりょ(日野さんの愛称)もやろ!」と、日野さんを巻き込み、役割分担をして作業開始。Aちゃんたちきょうだいは3人でかたまり、少し離れたところで何やらおしゃべりしています。
「いっしょにやる?」日野さんがAちゃんたちきょうだいに声をかけると、一番上のお姉ちゃんがコクリと頷き、テーブルに全員集合。ここでも、折り紙を細く切る人、輪っかを作りつなげる人とに手分けして、長いかざりを作ります。
今日はみんなで一つの作業に取り掛かることになりましたが、一人ひとりの思いを大事にしているこの場所では、みんなと一緒に遊ぶことは強制されません。日野さんは、場を共有している子どもたちをこうしてつなぐ役割も担いますが、その声色には「好きなようにしたらいいよ」という、余白も含んでいるように聞こえます。
だんだん、のびのび、リラックス
輪っかの飾りが長くなり、足りるかな~と言いながら少しずつ飾りつけも開始。終わりが見えてくると、他の遊びにも少しずつ手がのび始める子どもたち。
聞けば、Jくん・Sちゃんきょうだいはあそびば開所日からの常連さんで、ここでの過ごし方もとてものびのびして見えました。押し入れのところから飛んでみたり、床でお絵描きを始めたり。対してAちゃん・Aくん・Hちゃんのきょうだいは、この夏からあそびばに通い始めたニューカマーで、遊び方はJくんたちに比べると少し控えめ。机の上できちんと遊んでいる感じから、まだまだ本領発揮はしていなさそう。でも、楽しげな表情でリラックスはしているようです。
Aちゃんたちと見立て遊び(このブロックを野菜や果物に見立てて、お買い物ごっこをしました)をしている横で、Sちゃんたちが何やら描き始めました。なっつんのお誕生日パーティーのかざりつけ第2段で「おたんじょうび おめでとう」のメッセージカードをつくっているようです。「画用紙はどこにある?」「『!』をつけた方がいいかな」などと相談しながら、1文字ずつ仕上げています。
飾りつけを考えたり、遊んだり。一つのことをやり切ってから別の遊びとするのではなく、やりたいことを2つ、3つといったりきたりしながら過ごす。そういうことを当たり前に見守ってもらえる場というのは、貴重な気がします。
開所中は、出入り自由
午後3時ごろ、Jくんは、近所の歯医者さんに出かけていきました。終わったら帰ってくるそうです。開いている時間内であれば、あそびばは出入り自由。
この頃になると、私も含め、あそびばにいるみんなの緊張はすっかりほぐれていました。子どもたちそれぞれが自由にはしゃぎはじめ、賑やかな声や動きが出てきます。
しばらくして、歯医者からJくんが帰ってきました。そして始まったのは色鬼。鬼が言った色を指さす遊びです。「エメラルドグリーン!」部屋にあるあらゆるものは、絵具やクレヨンではないので、モノに色の名前はついていません。壁の色や誰かが描いた絵を指し、各々のエメラルドグリーンを主張します。
みんなで外へ!
ほどなくして、全員で外へお散歩に。鬼ごっこをしたい!と行って駆けて行ったチームと
木々のふもとでセミの抜け殻採集(!)をする組に別れました。
ミーンミンミンと辺りに響き渡るセミの声。たくさん植わっているアジサイの葉っぱの裏に、ひとつセミの抜け殻を見つけると「あれ、ここにも。あ、向こうにもあるよ!」とHちゃんは、抜け殻を次々と発見。ブローチを着けるように、あまりに自然と服に引っ掛けるので、私は少しビックリしました(カッコ悪いかなと思い、その場では言いませんでしたが)。
30分ほど外で過ごして、みんなで部屋に戻りました。強い西陽が射す、夏の夕暮れ。海風が吹くと、少し涼しさを感じますが、暑い。鬼ごっこをした子どもたちは、しっかり汗をかいていました。
最後までフルパワーで遊ぶ子どもたち
疲れただろうという大人の気持ちをよそに、子どもたちは水分補給を終えるとすぐに遊び始めました。しかも、戦いごっこというハードな遊びを。
なっつんの誕生日パーティーの飾りつけも総仕上げです。メッセージを吊るすのに使う洗濯ばさみを部屋の中から大捜索したり、文字のバランスを見たりしながら、完成!「なっつん、どんなリアクションするかなあ!」と、日野さんと子どもたちは盛り上がっていました。
次の開所を楽しみに帰宅
そして迎えた17時。あそびばは18時までが開所時間ですが、今日の5人は17時で帰宅の様子。時間がくると、保護者の方が迎えに来たり、近所の場合は子供たちだけで帰ったり、それぞれのご家庭のかたちで家路に着きます。
Aちゃん・Aくん・Hちゃんのことは、お母さんがお迎えに。お母さんに会うなり「次のあそびばにこれる?行きたいよー」と相談している姿が印象的でした。今日準備したなっつんのお誕生日、祝いたいよね。あそびばで、また時間を過ごしたいと思っているんだろうとも感じました。
子どもたちは日野さんに、そして私にもハイタッチをしてくれて、車の中からもずっと手を降ってくれていました。
片づけをしながら聞いた日野さんの想い
最後まで元気いっぱいだった子どもたちらが帰宅して、静かになったあそびばを日野さんと一緒に片づけ。あそびばをどんなふうに育ててきたのかたずねると「子どもたちと一緒につくってきた」という答えが。
気持ちを大事に表現することと同様、場をつくっていくことにも、そのかたちに正解はない。子どもたちとのコミュニケーションや行動、表現したい意志にどうやって応えればいいか悩み考えながら、今日までの日々を歩んできたといいます。
「子どもたちが帰った後、どんな言葉をかけてあげれば良かったかなとか、あの時の行動はどうだっただろうと、1人で悩むこともありました。それでも続けていると、子どもたちの成長を感じられる瞬間があって。そういう時に、積み重ねてきたやり取りの意味も実感できるんですよね。
インターン生や自分以外の人があそびばに来てくれて、現場感を共有できると、新しい考え方に気づかせてもらえたり、救われたりすることも多いんです。新しいメンバーとは、対話しながら、一緒にあそびばのことを育てていけたらなって思っています」
今回は、あそびばの一日をご紹介しました。今後、ここに通う子どもたちや保護者の声、地域に暮らすみなさんの声を聞いてみたいと思います。日野さんにも、あそびばや働く人への想いをあらためて聞く予定です。あそびばに関心がある、スタッフとして関わってみたいという方は、そちらもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
ならはこどものあそびば
幼稚園〜小学生が放課後や休日に過ごせる居場所です。画材や工作道具があります。
ここにいるスタッフは、ありのままの自分でいられるように、サポートします。子どもたちの様子や開所日はInstagramよりご確認ください。
住所:福島県双葉郡楢葉町大字下小塙字町95(旧管野商店)
Instagram
蒔田志保
記録家・ライター
1993年生まれ。愛知県出身。学生時代、学習支援のボランティアで南相馬市の子どもたちの支
援を始め、南相馬市と縁ができる。飲食店勤務を経て、結婚を機に、2018年に南相馬市へ移住。コーヒースタンドに勤務しながら地域の人々と出会い、書く仕事もするようになる。出産を機に、本格的にフリーランスのライターへ転身し、インタビュー記事等の執筆を担当。2024年より、記録家としての活動開始。地域活動や風土、暮らしの営みについて知り、残すべく、そのかたちを模索中。