【あそびばの仲間集め】放課後のならはこどものあそびばを訪ねて
子どもたちの居場所となり、自分とあいての気持ちを大切に表現できる場をつくりたいと2022年にひらかれた「ならはこどものあそびば(以下、あそびば)」。インターンシップをきっかけに楢葉町へ移住してきた、日野涼音(りょう)さんによって運営され、開所から2年が経ちました。
来年度からは活動の場をさらに広げたいと、現在仲間を募集中です。新しく混ざってもらう前にあそびばの様子や活動への想いを知ってほしいと、Web記事での発信も始めました。(前回の記事はこちら)
前回、あそびばを訪ねたのは夏休みのことでした。学校帰りの子どもたちは一体どんな様子なのでしょう。時間も短くなるうえに、平日となると雰囲気も少し異なりそうです。初めての訪問では、子どもたちとの距離感に少し迷いもありましたが、今日は話も聞いてみたい。あそびばに通う子どもたちと保護者にとって、この場所はどんな存在なんだろう。一緒に過ごす中、そんな質問も投げかけてみました。
残暑が続き、まだまだ汗ばむ9月のはじめ、放課後のあそびばにはどんな時間が流れるのでしょうか。
子どもたちを迎える準備から
学校のある平日、あそびばは14:30からスタートします。町内の小学校低学年の授業が終わるタイミングに合わせてこの時間なのだそう。はじまる少し前に到着すると、日野さんが看板を出したり、お掃除をしたり、子どもたちを出迎える準備をしていました。
あそびばには、参加者名簿はありません。そのため、学校の授業時間や習い事の都合などからざっくりとした予想は立てられるものの、その日のメンバーは子どもたちが来るまでは分からないと言います。「今日は習い事がある子も少ない日なので、賑わうと思うのですが」と日野さん。
今日は、誰が遊びにくるのかな?
1番乗りは、年長さんの女の子
「行きたいって言うんで、連れてきちゃいました」
14:30を過ぎて間もなく、髪の毛を二つに結んだ女の子・Aちゃんとお母さんがやってきました。万歳するようにお母さんと両手をつないだAちゃんは、年長さん。少し前に、近所に暮らす小学生に付いて初めてあそびばに来て以来、気に入ったそうです。この日で3度目のあそびば時間とのこと。
二人でじっくり、遊びを一つずつ移動する
お母さんに手を振り、嬉しそうに遊び始めたAちゃん。まず気になったのは、プラスチックでできたカラフルなホース。伸び縮みさせると音が出ます。太さが3種類ほどあり、異なる音の高さを楽しんでいる様子。ビヨーン、ピュロロロロロロ。軽くて愉快な音が飛び出てきます。
その次は、パズル。遊びが一つひとつ変わっていく様子は、前回の訪問では見られなかったもの。一対一で関われるこの時間、日野さんもAちゃんのペースに合わせて遊べることが嬉しそうです。
パズルが完成すると「Aちゃん、お絵かき好きだったよね」と日野さん。そうだったと言わんばかりに、Aちゃんは「絵の具やるー!」と立ち上がり、道具を探しに。あそびばでは、絵の具のほかに、クレヨンやクレパスなどもあり、いろいろな画材を使ってお絵かきや工作が楽しめます。
1本ずつ違う色の絵の具を使い「カラフルな線」を描いていくAちゃん。時に、紙の上からはみ出すこともありますが、心配無用。テーブルの上には、大きな模造紙が敷かれており、すでにたくさんの落書きが。家であれば「はみ出さないようにね!」なんて、思わず私は言ってしまいそうです。小言をいわれることなく、汚れを気にすることもなく、のびのびお絵かきができるって、嬉しいだろうな、気持ち良いだろうな。
この時の日野さんはというと、Aちゃんの横で「リボンにハマってるんです」といくつものリボンを繰り返し描いていました。一緒の遊びをそれぞれに楽しむ時間。残量が少なくなって、なかなかでてこない絵の具があると、チューブを机の角にぶつけてトントントン。すると、わずかにプチュッと絵の具が出てくるんです。その様子を「魔法だよ」と日野さんは言います。Aちゃんはすぐに、その魔法を習得していました。
おかえり小学生!お母さんの車で到着
15:30ごろ、2人がお絵かきに夢中になっていると、あそびばの前を歩きながら下校する小学生の姿がパラパラ見えるように。すると、一台の車が玄関に停まり、ランドセルを背負った子どもたちが降りてきました。そこには、前回訪ねた時にも遊びに来ていたきょうだいの姿。再会に私も嬉しくなります。お母さんが学校へ迎えに行き、そのままあそびばに立ち寄ったようです。
友達が来たら、いつもの自分がもっと出てくる
夏休みに何度かここで過ごしたHちゃんは、この場にも慣れてきているのか、あそびばに着いた途端からイキイキと遊び始めました。Hちゃん来ると、Aちゃんの顔もパッと明るく、おしゃべりの声も一段と元気に。Hちゃんこそが、Aちゃんをあそびばに誘った本人だったのです。
Hちゃんは、押し入れの中から、ワイヤーフレームを意気揚々と持ち出してきました。なにやら「バーベキューしよう!」と、Aちゃんと日野さんに提案します。二人もノリノリで、準備のはじまり。
友達とあそび場で待ち合わせ
3人がせっせとバーベキューの準備をしていると、あっという間に時刻は16:30。今日はもう他の子どもたちはこないかなあと日野さんとぼんやり話していると、外がまた少し賑やかに。立て続けに車が1台、2台と停まり、ワイワイと女の子グループが降りてきました。保護者のみなさんも「〇時に迎えに来ます、お願いしますー!」とさらっと挨拶をして帰っていきます。
高学年になると、あそびばで宿題もやっていく
このタイミングであそびばに来たのは、小学4年生の女の子たち。開所間もないころから通っているというTちゃんと、久しぶりに来たというKちゃん。二人はガサっとランドセルを置き、漢字ドリルを取り出しました。ここで宿題を済ますようです。あそびばは勉強の場にもなるとは。まさに、放課後。
「あとでHNちゃんも来るって言ってたよー」とTちゃんが言っていると、HNちゃんが駆け足でやってきました。同じ学年のHNちゃんですが、彼女は一度家に帰ってからあそびばに来たようです。荷物も置いてきているので、最初から遊びモード全開。
一緒にいるのが楽しい関係性で盛り上がる
4年生が来てからの時間、あそびばはおしゃべりでいっぱいになりました。学校では学習発表会にむけて準備をしていること。カービィが流行っていること。好きな給食のこと。お寿司を食べるときにはいわきのくら寿司に行くこと。時折、AちゃんやHちゃんも混ざりながら、いろいろな、なんでもない話題が飛び交います。
同じ空間にいても過ごし方にはグラデーションが出てきます。AちゃんとHちゃんはバーベキュー準備を熱心に続け、4年生は彼女たちで宿題とおしゃべりを楽しんでいました。日野さんは、真ん中にいたり、少し離れてみていたりと、みんなの間を行き来しながら様子全体を見守っていました。
あそびばでの遊び方、家での遊び方
バーベキューセットを仕込んでいたHちゃんに、家でもこうした工作をするの?と聞いてみると「おままごとや工作遊びは好きだよー」と答えが。続けて「粘土や折り紙、ここ(あそびば)には材料がいっぱいあって楽しい。やってる日はいつも来る!」と教えてくれて、あそびばでの時間が日々の中にある楽しみの一つなんだなあということが伝わってきました。
17時が近づいてくると、保護者の方がお迎えにき始めました。一番早いお迎えはAちゃんのお母さん。日野さんは、絵の具で描いた絵を持っていく?と聞き手渡し、お土産に。
その後まもなく、4年生のHNちゃんもお迎えの時間。習い事にいくようで、ほかの2人より一足早く帰宅です。夕方からも忙しいのは高学年ならではでしょうか。大きく手を振ってお見送りしました。
つづいてHちゃん、Kちゃんとお迎えが来て、もうちょっと遊びたそうに、あるいは友達ともうちょっと長く過ごしたそうに帰っていきました。「また明日ね!」と言い合う姿は、なんだかいい光景。
最後まで残っていたのは、Tちゃんです。宿題を終え、ハマっているというカービィを紙粘土で作り始めます。
友達と集まったり、気ままにやりたいことに取り組んだり
Tちゃんがあそびばにくるのは「ひまな時、友達がくる日」なのだそう。何もすることがない時にふらっと出かける場所、友達と一緒に過ごすのにちょうどいい場所。一人で、大好きなカービィを気ままに作れちゃうのも、またあそびば。
18時、あそびばが終わる時間にTちゃんのお父さんがお迎えに。「なるべく遅く迎えに来てって言われるんですよ」とお父さんは笑っていました。
保護者に聞いたあそびばのこと
お迎えに来た保護者の方に、あそびばに出かける子どもたちの様子を聞いてみました。
「本人が行きたいって言うので連れてきています。今日は学校からそのまま連れてきましたが、一度家に帰って宿題をしてから遊びにくることが多いかな。高学年になり、16時半ごろまで学校があるし、宿題も多くて来られないことも増えちゃったんですけどね。
絵をよく描いてくるのですが、ここで描いたものを家族が気に入って家で飾っています。小さい子から大きい子まで一緒に遊べるのもいいですよね。押し入れを秘密基地みたいに遊ぶなんて、家ではでてこない発想だなあと。最近は次女もここに来て遊んでいます」(4年生・Tちゃんのお父さん)
「家が近所なので、あそびばは気になる存在でした。でも、子どもたちがかなり人見知りをする性格なので、来れずにいたんです。友達が行っているのを見て、夏休みに思い切って連れてきてみました。今では『次に開いてるのいつ?』と聞かれるほど、こどもたちはあそびばを楽しんでいます。日野さんに聞いても、ここでは人見知りらしいそぶりはみられないようでビックリです。
わが家は三きょうだいで、家ではきょうだい喧嘩もしょっちゅうなんです(笑)。それなら、ここに来て楽しく過ごせる方がいいなと。土日も開いてることがあり、ありがたいですね。1年生の次女が一番よく通っていて、長女・長男は友達がいれば行こうかなって感じです」(1年生・Hちゃんのお母さん)
あそびばは放課後の待ち合わせ場所
「小学生の頃、学校が終わると『公園で待ち合わせね!』と言って友達と集まっていました。このあそびばが、そんな待ち合わせ場所になれているのが嬉しいんですよね」
幼き日を懐かしむように、日野さんはそう話します。楢葉町内には他にも子どもたちが集う場所がありますが、あそびばにはクラフト好きな子どもたちが集まるのだそう。それは、工作道具が集まっている環境だけでなく、日野さんが子どもたちのやることに干渉しすぎない距離感を保っているからなんじゃないかと思いました。
来る子どもたちによって時間の過ごし方や空間の雰囲気が変わることを目の当たりにした二度目の訪問。あそびばにあるものをなんでも使って、気ままに過ごしていく子どもたちとどう関わるのか。言葉一つとっても正解はないでしょう。だからこそ、受け入れる側もその分からなさを楽しむくらいのおおらかな心持ちで、この場を育めたのなら。その過程には、大人にとってのいろいろな発見も詰まっていそうです。
次回の記事では、日野さんやあそびばにインターンに来ていた学生など、この場をつくってきたみなさんのインタビュー記事をお届け予定です。あそびばについてこれまでどのように考え活動してきたのか、現場の裏側をのぞいてきます。
▼「ならはこどものあそびば」についてこちらの記事でも紹介しています
蒔田志保
記録家・ライター
1993年生まれ。愛知県出身。学生時代、学習支援のボランティアで南相馬市の子どもたちの支
援を始め、南相馬市と縁ができる。飲食店勤務を経て、結婚を機に、2018年に南相馬市へ移住。コーヒースタンドに勤務しながら地域の人々と出会い、書く仕事もするようになる。出産を機に、本格的にフリーランスのライターへ転身し、インタビュー記事等の執筆を担当。2024年より、記録家としての活動開始。地域活動や風土、暮らしの営みについて知り、残すべく、そのかたちを模索中。