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大人は子どもたちの「やってみたい」を見守る、大きな子ども。新たな仲間にも伝えたい、気持ちのままに過ごす居場所の在り方【あそびばの仲間集め】

子どもたちの居場所となり、自分とあいての気持ちを大切に表現できる場をつくりたいと、日野涼音(ルビ:りょう)さんが楢葉町で始めた「ならはこどものあそびば(以下、あそびば)」。開所から2年が経ち、最近では毎回10名ほどの子どもたちがあそびにやってきます。

活動の幅をさらに広げるための仲間と出会いたい。そのためにあそびばのことを伝えたいと、日々の様子のレポートや地域の方との対談をまとめた連載【あそびばの仲間集め】をお届けしてきました。

ならはこどものあそびばー夏休みの一日ー【あそびばの仲間集め】
放課後のならはこどものあそびばを訪ねて【あそびばの仲間集め】
地域で暮らす・働く大人と一緒に振り返る、あそびばの変遷【あそびばの仲間集め】

今回は日野さんと、半年間インターン生として活動に参加した原田夏葵(ルビ:なつき)さんにインタビュー。日野さんたちが子どもたちとどのように関わり、あそびばの活動を育んできたのかを聞いてみると、子どもたちがエネルギーいっぱいに過ごしている理由がみえてきました。 

遊びの仕掛け人から見守り役へ

「りょりょ、ただいまー」

あそびばにくる子どもたちは、日野さんのことを「りょりょ」と呼びます。友達のような、お姉さんのような存在として慕っているようです。

玄関のガラスの引き戸は子どもたちの絵や言葉で彩られ、中に入れば床や壁にまで落書きあり。工作した作品や遊びの跡があちこちにみられ、訪ねる度に変わる景色もここを訪れる楽しみの一つです。

壁いっぱいに飾られる子どもたちの創作を見ていると気持ちが明るくなります

ここに来る子どもたちは、いつも自由気まま。あそびばの風景は、日野さんが子どもたちと一緒に過ごす中で育まれてきました。

「あそびばにいる大人は、身体の大きな子どもです。子どもたちと対等に関わることは、活動を始めた当初からずっと心がけてきました。危ないことや嫌がる人がその場にいない限りは、ここではどんなことをしてもいい。子どもたちの遊びや過ごし方は止めません」

誕生した当初、あそびばには「子どもたちの居場所」ということ以外に目標やお手本はありませんでした。子どもたちは何をして過ごせばいいのかわからず戸惑っていた時期もあったと日野さんは振り返ります。

日野さん。活動の歩みを振り返る表情は少し緊張しながらも、一つひとつ大事に話してくれました

「初期のころは、私のやりたいことを声に出して、遊びの仕掛け人のように振る舞っていましたね。絵の具で石に絵を描いてみようかな、粘土で食べ物を作ってみようかな、とか。そうすると、一緒にやりたい子は混ざってくるし、私がやっていることを見て別の遊びを始める子もいました。

遊びの発想が得意な子もいて、子どもたちに遊び方を相談したり、教わったりすることが少しずつ増えました。今では”常連組”が勝手に遊び始めてくれるので、私は子どもたちの様子をただただ見ている役目に変わりつつあります」

イタズラだって、子どもたちの「やってみたい」

「ここではどんなことをしてもいい」

そう実感できた子どもたちからは、どんな遊びのアイデアがでてくるのでしょう。日野さんに、あそびばらしい遊びや過ごし方のエピソードを尋ねると、イメージする内容とはかけ離れていて、思わず「えっ」と言ってしまいました。

質問をするとニヤッと笑うお二人。続く答えとは…..

「あそびばらしい遊びといえば、床にバケツに溜めた水を撒くことですかね。墨汁を撒かれたこともあります。他には、座布団を外に出して寝転がってみる、その座布団に色水をかける。トイレを水族館にしたいからと絵の具で壁を塗り替える。換気扇に紐を引っ掛けてみたいと言い出す。アリにお菓子を食べさせるためにおやつをばら撒く、押し入れに油性ペンで落書きをする……」

数回の訪問では見られなかった子どもたちの自由奔放っぷりに圧倒されながらも、笑って話す日野さんへの驚きが勝ります。聞けば、子どもが初めて床に水を撒いた日は叱ったり、止めたりするべきか悩んだそう。

どうして止めなかったのでしょうか?

「水を撒かないでほしいと思っているのは、この場で私だけということに気づいたんです。服をびしゃびしゃにして保護者に怒られるかもしれない、片付けが大変、という不安を想像するから『止めて』って言いたくなっていた。

でも、目の前の子どもたちに目を向ければ、場としては楽しげな状況だったんですよね。嫌がっている子もいないのであれば、やりたいならやったらいい!と考えられるようになりました」

インターン生の原田さんは最初、子どもたちの発想に驚き、少し距離を取って様子をみていたそうです。しかし、日野さんの関わり方を見るうちに、目の前で起こることにワクワクするようになったといいます。

原田さん。「子どもたちと過ごした時間は心の底から笑えるんです!」と楽しんでいる様子が伝わってくる

「例えば水を撒いた時に光が射して、ガラスみたいにキラキラしてるなとか、プールみたいになっちゃった!とか。見方を変えれば面白いなって。

私は子どもと一緒に遊ぶことは好きだけど、遊びを考えるのは苦手だったんです。でも、ここにくると遊びのアイデアが湧いてくるようになりました」

あれこれしなさいと注意するわけでもなく、そこで起きることにただ目を向ける。保護者や先生という立場で同じことをするのは、そう簡単ではありません。一見すればイタズラに見えることも、子どもたちの「やってみたい」のかたち。

やりたいことに素直に取り組む体験は、自分の気持ちのままに行動できる力にもつながっていくはずです。

あそびばの玄関をペインティング!見ている二人も楽しそう

最後の一秒まで遊び尽くせる場でありたい

あそびばには、後片付けをするルールもありません。床にテープを貼ったら貼ったまま、紙屑をワッと撒いたら広げたまま、そんな景色があそびばの日常です。保護者のお迎えが来たら、遊びっぱなしで子どもたちは帰っていきます。

「子どもたちには、最後の一秒まで遊んで帰ってほしいんです。今のあそびばには、そのスタイルが合っています」と日野さんは語気を強めます。

2年の活動を通して、気持ちをそのまま発散する環境や自分のことをじっくり見つめてもらえる時間を子どもたちは求めているのを感じるようになったと、日野さんは話します。

家や学校では「ちゃんとする」ことで褒められたり、気持ちよくいられることもあるでしょう。でも、片付けなんて先のことを考えずに「今」を味わうことに熱中できたら。持っているエネルギーを100%爆発させてもいいと思える場所があったなら。そんな時間を一緒に楽しんだり、笑ってくれたりする仲間がいたなら。

子どもたちからは、ものすごいパワーが溢れてきそう。大人の想像の範疇を超えた遊びがうまれるのも納得です。

子どもたちは「掃除しなよ」と日野さんに言いながらも、片付けはせずにそのまま遊び始めるのが日常です

個性をつぶされない居場所をつくりたい

日野さんは幼稚園教諭を目指していたこともあるほどの子ども好き。学生時代は教育に関わる学生団体の運営をしていたこともありました。楢葉町との出会いは、学生時代のインターンシップ。楢葉町で出会った大人たちに惹かれ、楢葉町で暮らしていくことを決断します。

どんな活動をしていこうか考えていた当初、ずっと関心があった「教育」に関することは楢葉町では難しいと感じていたといいます。子どもたちとの関わりが少なく、町で子どもたちの姿を見かけることもなかったためです。

転機は、楢葉町でお世話になっている身近な人々に子どもが生まれたことでした。

「目の前にいる子の個性がつぶされないような地域、社会をつくりたいと思いました。その頃から、子どもそれぞれに合う居場所が地域の中にあると良いなと考えるようになりました。当時、楢葉町にはこども園、小学校、中学校が1つずつしかなく、民間で子ども支援活動をする団体もなかったんですよね。家でも、学校でもないどんな子も、ありのままでいんだよと受け止めてあげられる場所をつくろうと動き始めました」 

放課後児童クラブや学校の課外活動、習い事など、楢葉町内には子どもたちの居場所も増えてきています。学校の授業ではできない体験ができる場を、子どもたちも楽しんでいるそうです。

一方で、何をしてもいいあそびばは、何もしなくていい、思うままに過ごす自分に寄り添ってくれる場所。イタズラのようにあそんでも、のんびりボーっとしていても、その日その時の自分を見守ってもらえる。それが、この場所の心地良さなのかもしれません。

「子どもたちが過ごし方に合わせて居場所を選べるようになっていること、あそびばが居場所の一つになれていることを嬉しく思います」

楢葉町のあちこちが子どもたちの居場所になる未来を願って

「活動を始めた頃は、あそびばへの想いはあるのにここがどんな場所で、子どもたちがどんなふうに過ごしているのか言語化できなかったんです。2年間経ってようやく、あそびばらしいシーンや空気感を周りにも伝えられるようになりました」と日野さんは話します。

これからあそびばを通して描きたい、町の風景についても教えてくれました。

「子どもたちが自分たちで集まり、町のあちこちで自由に過ごせるようになったらいいなと思っています。町中のどこかの公園や各地区にある集会所に放課後に友達と集まるみたいな、私が子ども供のころには当たり前だった風景を未来の楢葉町で見てみたいですね。

これから数年はあそびばという枠組みの中で自由でいられる、たまり場のモデルのようなイメージで活動を続けていきたいと考えています。拠点の数を増やしたり、活動の在り方を進化させることで子どもたちに手渡せるものも増やせるんじゃないかと思うんです」

そのためには仲間が必要だと、日野さんは続けます。

「活動を広げることは、私一人だけでは難しいことを痛感しています。一緒に現場を見て、感じて、あそびばを進化させていける仲間がいたら心強いです」

あそびばに参加すれば、子どもたちの率直な表現に、日野さんの想いをかたちにする挑戦に、触れることになるでしょう。やりたいことをやってみたいと当たり前に言える環境に身をおけば、自分の中に眠っていた何かに気づくこともあるかもしれません。

こちらを読んで心がウズウズしたのなら、ぜひ一度あそびばに足を運んでみてください。自分の気持ちにまっすぐな子どもたちの顔を見ていると、自分のほんとの気持ちと向き合ってみたくなるかもしれませんよ。

文:蒔田志保
編集:五十嵐秋音
写真:中島悠二

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ならはこどもあそびばを共に創るメンバーを募集します!【楢葉町地域おこし協力隊 募集要項】

みなさんこんにちは!日野涼音(りょりょ)です。今回、福島県楢葉町での活動「ならはこどものあそびば」にて、一緒に場を創っていく仲間を募集することとなりました。 ならはこどものあそびば(以下、あそびば)は、2022年10月に [… …

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